壁魚雑記

漢籍や東洋史関係の論著を読んで気づいたこと、考えたことの覚書きです。ときどき珍スポ。

ソグド系ウィグル武人の肖像―五代人物伝(1)何重建

唐末五代の代北に勢力を伸長し、のちに後唐を建国した李克用父子率いる沙陀集団には多数のソグド系武人が存在したことが夙に指摘されているが、森部豊氏の一連の論著で取り上げられるように、彼らの淵源としては唐代にオルドスに設置された突厥遺民の羈縻州…

【虫注意】あの娘ぼくがゴキブリ食べたらどんな顔するだろう

先日、学生時代の後輩の結婚式に招かれ、横浜へ行ってきた。 十数年の付き合いになる後輩とは、学生時代はよく一緒にバカをして遊んだものだが、そんな彼女も明日は花嫁。彼女の幸せを祝う気持ちの裏に、娘を送り出す父親のような一抹の寂しさも覚える。僕が…

弐師将軍、神になる

東洋陶磁美術館の唐代胡人俑展で出会った数々の魅力的な胡人俑、それらが出土した墓の主は穆泰という唐代中期の武人だった。穆泰の素性についての個人的な見解は前回の記事に書いたが、今回は彼の墓誌で気になった箇所を深掘りしていきたい。 ano-hacienda.h…

唐代胡人俑展雑感

先日、館長が出川哲朗氏であることでネット上で有名な大阪市立東洋陶磁美術館へ胡人俑を観に行った。2001年に中国は甘粛省慶城県で発掘された、唐の武人・穆泰の墓の出土遺物のうち胡人俑など60点を将来した特別展、しかもその大量の展示品はすべて写真撮…

大阪関帝廟巡り

関帝廟といえば、日本では中華街のある横浜と神戸が有名だが、中国人こそ多いが中華街があるわけでもない大阪にも存在するらしい。しかも2ヶ所も。 そんな情報を得た僕は、初詣もまだ済ませていないことだしと、2ヶ所の関帝廟を訪れることにした。 1軒目…

年頭狗肉

戌年だから犬を食べよう。 そんな短絡的な発想で僕が足を延ばしたのは、大阪のコリアンタウンとして名高い鶴橋のおとなり今里新地。鶴橋に比べると新興のコリアンタウンらしいが、近年はベトナム人も増えているらしい。そして飛田・松島・信太山・滝井と並ぶ…

大東怪食記

大阪は大東市に珍しい動物が食べられる居酒屋があると聞いて伺った。 店の名は宝雪酒坊。ウーパールーパーが食べられる居酒屋として珍スポ界に名を馳せる(局地的)有名店である。 ウーパーは入荷していないときもあるらしいので、事前に電話で確認をとって…

バッタを倒しに山東へ

森福都に「黄飛蝗」という小説がある。唐の開元7年(719)、洛陽近郊の芒山で発生した大規模な蝗害に治蝗将軍・魏有裕が立ち向かうさまを描いた短編だが、魏有裕は治蝗軍と呼ばれる軍隊を率い、飼育していた病毒持ちの蝗「黄蝗」を飛蝗の大群に放つことで疫…

奥さん、アリジゴクですよ。

『北夢瑣言』逸文巻第四「砂俘」 陳藏器本草云「砂俘、又云倒行拘子、蜀人號曰俘鬱。旋乾土為孔、常睡不動。取致枕中、令夫妻相悦。」愚有親表曽曽得此物、未嘗試験。愚始游成都、止於逆旅、與賣草藥李山人相熟、見蜀城少年往往欣然而訪李生、仍以善價酬。因…

五人の伍子胥

呉王夫差から死を賜り、亡骸を馬の革袋に入れて長江に流されるという無念の最期をとげた伍子胥は、死後、胥山に祀られたが、長江のたたり神として後年も恐れられていたらしい。 『後漢書』巻44 鄧張徐張胡列伝第34 張禹の条 建初中、拜楊州刺史。當過江行部…

龍の敗者

『北夢瑣言逸文』巻4「闘龍」 石晋時、常山帥安重栄将謀干紀、其管界与刑台連接、闘殺一龍。郷豪有曹寛者見之、取其双角、前有一物如簾、文如乱錦、人莫知之。曹寛経年為寇所殺。壬寅年、討鎮州、誅安重栄也。葆光子読北史、見陸法和在梁時、将兵拒侯景将任…

唐五代のラクダ部隊とソグド系武人

高校時代、中国へ旅行に行ったとき、万里の長城で観光客向けの記念撮影用のラクダを見かけて度肝を抜かれた憶えがある。動物園のような柵のなかではなく、飼い主と思しき人間の傍らにしれっとたたずんでいたこともさりながら、当時の僕は、ラクダという生き…

中国史におけるブタトイレの風景

漢代を中心に、地方の豪族の墓などから当時のブタ小屋の明器が出土することがある。「猪圏」と呼ばれる柵に囲まれたブタ小屋である。 これら「猪圏」の明器には、柵に囲まれたブタ小屋の上階にトイレとなる小屋がついていることが多い。上階のトイレから垂ら…

石君立、ソグド人やめるってよ

ツイッターで呟いていた石君立ネタのまとめ。 中華書局の「点校本二十四史修訂本」シリーズの『新・旧五代史』が届いたのでパラパラめくっていたのだが、文献史料以外に墓誌も活用してテキストを修訂していて、なかなか面白い。 そのなかでも目に付いたのが…

カミナリ兄さん

久々に『北夢瑣言』を読んでいたら厨二心をくすぐる法籙の話が出てきたので、以下に記す。 『北夢瑣言逸文』巻第四「雷公籙」 巴蜀間、於高山頂或潔地、建天公壇、祈水旱。葢開元中上帝所降儀法、以示人也。其壇或羊牛所犯、及預齋者飲酒食肉、多為震死。新…

節分らしい話

陳舜臣は「鬼を驚かせ」というエッセイで遼代の正月の習俗「驚鬼居」に触れている。 鬼の住居を驚かす、というのだから、魔除けの行事にちがいない。記事によれば、モチゴメの飯と白羊の髄で拳大の団子をつくり、夜にそれを家から外にむかって投げたという。…

越後製菓は不正解

西晋の武帝が人の乳で育てた豚肉を食べた話は有名だが、貴族の生活が奢侈に流れた晋代では贅沢三昧のエピソードに事欠かない。 西晋の丞相となった何曾も食にこだわりが強かったようで、衣食住の豪奢は「王者を過ぐる」といわれ、一日の食費に一万銭を費やし…

小さいねって言われませんか

先日ツイッターでもつぶやいたが、最近、標記のタイトルで「ペ●ス増大注射」を勧める迷惑メールが頻繁に届く。 僕は決して「ペ●ス増大注射」のバナーなど踏んだことはないし、なんとかビデオやなんとかハムスターといったいかがわしい動画サイトを巡回するよ…

沙陀の貌

久しぶりの更新になります。うちのPCがWindows8.1にバージョンアップした関係かネットに接続できなくなってしまったので、iPhoneからの更新です。前回のエントリで突厥のビジュアルに触れましたが、コーカソイドの血を引くソグド系突厥などを除けば、阿史那…

映画のなかのソグド人―『ヘブン・アンド・アース』

久しぶりに『ヘブン・アンド・アース』を観ました。 時代考証や設定の面では色々とツッコみどころの多い作品ですが、シルクロードを舞台としたエキゾチックな『七人の侍』といった趣があり、僕の好きな映画のひとつです。 ときは西暦700年。遣唐使として唐に…

李密の愛妾

『北夢瑣言』逸文「韓定辭詩中僻典」に、唐の鎮州節度使の書記韓定辞と幽州節度使の幕客馬彧との詩の応酬のエピソードが記されているが、韓定辞の詩中に「盛德は銀筆の述を將ってするに好く、麗詞は雪兒の歌を與ってするに堪う」という句がある。 馬彧が典拠…

花の張巡~雲のかなたに~

唐代の忠臣をあげるとき、張巡の名は外せません。彼は安史の乱に際し、安史軍が河北・河南を席巻するなか、睢陽に拠って孤立無援の籠城戦をくりひろげた名将として知られています。 また、睢陽の攻防戦は、城内の女性を飢餓に苦しむ兵士の食糧に供したことで…

唐代のソグド系医官

『北夢瑣言』巻6「同昌公主事」に、唐の懿宗の愛娘である同昌公主が病死した際、その責任を負わされた医官が族滅されたという記事が見えます。 『北夢瑣言』巻6「同昌公主事」 因有疾、湯藥不效而殞、醫官韓宗昭・康守商等數家皆族誅。 同じ事件について、『…

「仮子」雑考

唐・五代を中心に、中国史上には「仮子」と呼ばれる人々が散見します。史料上では「義児」「義子」「義男」など、または単に「養子」とも書かれ、広く異姓養子を指すのですが、この「仮子」概念を多くの研究者は、宗族の祭祀を絶やさぬための純粋な後継者と…

煬帝の動くフィギュア

隋の煬帝がまだ晋王であったときからの寵臣に柳䛒という人物がいます。 若いころから文才に恵まれていた柳䛒は、文雅好みの晋王楊広(煬帝)の帷幄に招かれ、師友としての待遇を受け、文章の起草にその達意の筆をふるっていましたが、煬帝の彼への寵愛ぶりに…

ブログはじめました。

前々からやろうと思っていた東洋史ブログをはじめました。 いままでツイッターで呟いていた東洋史ネタをここでまとめておこうかと。 主に漢籍や本・論文を読んで気づいたこと、考えたことの覚書きになるかと思います。 ブログタイトルの「壁魚」は「紙魚」の…