壁魚雑記

漢籍や東洋史関係の論著を読んで気づいたこと、考えたことの覚書きです。ときどき珍スポ。

スキンケア男子・安禄山~安史の乱点描(5)

天宝十載(751年)正月一日、この日は安禄山の誕生日ということで(この年で数え四十九歳)、玄宗及び楊貴妃から各種の誕生日プレゼントが下賜されている。 『安禄山事迹』巻上 天宝十載正月の条 玄宗賜金花大銀盆二、金花銀雙絲平二、金鍍銀蓋椀二、金平脱…

『入唐求法巡礼行記』に見える酢

最近、すきま時間に『入唐求法巡礼行記』(中公文庫版)を読んでいるが、気になるのが、山東を旅する円仁一行が食を施される際、「使君手書施兩碩米・兩碩麵・一斛油・一斗醋 ・一斗鹽・柴三十根・以充旅糧。(使君は直筆で米二石・麺二石・油一斗・酢一斗・…

哥舒翰のブラッドソーセージ~安史の乱点描(4)

近年、安史の乱については、ソグドと突厥の混血児である安禄山をはじめ、ソグドや突厥、奚、契丹などの安史軍の民族構成だけでなく、これと対峙した唐朝側についても、契丹出身の李光弼や鉄勒の僕固懐恩をはじめとする非漢族の将領や、その旗下にいた遊牧民…

その男ヴァンダク

中国に移住したソグド人の諱・字として「盤陀」「槃陁」という名を見かけることが多い。 これはソグド人に多いと見られている「〇〇(神の名)ヴァンダク」という名の漢字音転写といわれており、概ね頭に神の名を冠している。 たとえば「ナナイヴァンダク(N…

宋代の巫覡と疫病対策

先日読んだ中村治兵衛『中国シャーマニズムの研究』(刀水書房、1992)は、唐宋時代の正史から小説、士大夫層による詩文に見える巫覡に係る記事を網羅して、彼らの存在形態と活動の実態を分析しており、面白いエピソードにも事欠かない好著だった。 そのなか…

顔真卿と飲中八仙

顔真卿が書いた墓誌が出土したそうで、例によってツイッター上でちょっとした話題になっている。 https://min.news/hot/7c11c3c57af2a3bad203ef9b3b67131b.html 釈文が公表されてないので深入りはできないが、墓主は羅婉順という鮮卑系の婦人で、夫の元大謙…

昭和レトロだけでは片付けられないレトロ喫茶「ランプ城」

室蘭の街外れに「ランプ城」というレトロな喫茶店がある。 珍スポ界隈ではそれなりに名の通った店らしく、僕はレトロ喫茶も好きなので、前々から気になっていたのだ。函館への小旅行の帰路、室蘭に寄って、件のランプ城を捜してみた。 Google マップに案内さ…

日本最北の関帝廟があると聞いて

行ってきました、函館中華会館に。 といっても、現在、一般公開はしていないので、中の関帝廟には参拝できない。 それでも西暦1910年ということは、清朝の宣統2年に建てられたわけで、日本で唯一の清代建築らしい。 幕末から開港した函館には俵物や昆布の取…

博浪沙のはなし

黄河の流域には沙地や沙丘が形成されることが多いという。 黄河が運ぶ土砂は、氾濫のたびに沖積平原に堆積されていき、乾燥した土砂に強風が吹きつけると、細かい粒子だけが吹き上げられ、沙地や沙丘が形成される。この沙地について、大川裕子氏は、古代中国…

トゥルギッシュのなかのソグド人

西突厥の一派であるテュルク系遊牧民のトゥルギッシュ(突騎施)は、烏質勒が君長となったときに、その主君であった西突厥可汗の阿史那斛瑟羅の部衆を併呑し、西突厥の覇権を握るほどに勢力を伸張した。神龍2年(706)、その子の娑葛は父の後を襲って唐の羈…

靺鞨のなかのソグド人

『冊府元亀』外臣部の以下の記事が、文献上に見えるソグド人が他民族へ進出した最北端の事例ではないかと思ったので、メモを残しておく。 『冊府元亀』巻975 外臣部 褒異二 開元十五年条 二月辛亥、鐡利靺鞨米象來朝、授郎將、放還蕃。 二月辛亥の日、鉄利靺…

鳳凰がくる

今年の大河ドラマ『麒麟がくる』がスタートした。タイトルはもちろん孔子の「獲麟」の故事に基づいているのだろう。太平の世に出現する瑞獣・麒麟。しかし戦乱絶え間ない時代に、孔子は本来あらわれるはずのない麒麟の亡骸を見つけてしまい、慨嘆する。世を…

唐土における非漢人の姓名について

吉備真備が書いたと思われる墓誌が公開されたとのことで、僕のツイッターのTLもにぎわっている。 www3.nhk.or.jp 真備は「朝臣備」と称していた(あるいは呼ばれていた)ようで、ウジではなくカバネを唐土における姓としていたらしい。これは阿倍仲麻呂も同…

「古代中国 墳墓の護り手」展雑感

週末、神田にある東京天理ビル内の天理ギャラリーで開催されていたこちらの展示に行ってきた。 東京にも天理教のビルがあるというのは初めて知ったが、天理市の宗教建築とは違い、いたって普通のビルで肩透かしをくらう。 しかしエレベーターの内部は鏡張り…

登州文登県における仏像出土とその背景~『五代会要』の瑞祥記事を読む

先日の即位礼正殿の儀の最中、それまで降っていた雨があがり、空に虹がかかったことで、僕のツイッターのTL上にも「瑞祥だ」というざわつきが流れてきた。 もちろん皆さんネタでいっているのだが、世の中にはすなおに感動している方も多いようで、政教分離が…

乱世の犬バカフードファイター~宦官これくしょん(1)廖習之~

宦官という人種には、後宮の奥で陰謀をめぐらせるような、あるいは天子の股肱でありながらその廃立を画策するような、どこかぬめりとした陰湿なイメージがつきまとっている。三国志でおなじみの後漢の十常侍や、秦を滅亡に導いた趙高、明の専横者・魏忠賢ら…

0パーセントの晴れ男

先日『天気の子』を見てきたので、唐代の天気の子っぽい話を紹介する。 『朝野僉載』巻5 景雲中、西京霖雨六十餘日。有一胡僧名寶嚴、自云有術法、能止雨。設壇場、誦經咒。其時禁屠宰、寶嚴用羊二十口・馬兩匹以祭。祈請經五十餘日、其雨更盛。於是斬逐胡…

南楚覇王補遺~安史の乱点描(3)

以前、安史の乱に紛れて襄州で「南楚の覇王」を称して自立割拠したソグド系武人・康楚元について記事を書いた。ano-hacienda.hatenablog.com このときは楚元のルーツについて、交通の要衝である襄州に集住したソグドの一族から軍士として出仕したものと推測…

珍小島の冒険

洞爺湖はあいにくの曇り空であった。 中国人観光客の家族が哄笑を響かせながら記念写真を撮り、白人の熟年夫婦は手をつないで湖畔を散歩する。 洞爺湖サミットで一躍世界的な知名度を得たからか、温泉街にも、湖畔の遊歩道にも、外国人観光客が多い。 遊覧船…

魅惑(?)の三国志エロラノベの世界~羅姦中『三国志艶義 貂蝉伝』シリーズ

トーハクの三国志展が開幕し、関連出版物も続々刊行される今夏、日本では何度目かの三国志ブームが起きているようだ。 横山三国志や吉川三国志を読んで育った僕も、最近は三国志熱が再燃し、関連書籍をいくらか読んでいるが、今回はそのなかでも僕以外には誰…

碧い瞳の項羽~安史の乱点描(2)

河北では史思明が大燕皇帝を称して自立し、唐朝と安史軍が一進一退の攻防をくりひろげていた粛宗の乾元2年(759)8月、安史軍の勢力圏からは遠い洛陽南方の襄州でひとつの反乱が起こった。 『旧唐書』巻10 粛宗紀 乾元二年条 八月乙亥、襄州偏將康楚元逐刺…

左慈の弁当

久々に『北夢瑣言』を読んでいると、気になる記事が見つかった。 『北夢瑣言』逸文補遺 六甲行厨 修道功深者、享六甲行厨。凡有所須、舉意即至。 道術を深く修めた者は、「六甲行厨」を会得できる。およそ望むものは、念ずればすぐに届く。 解釈にあまり自信…

長安独身男子

高橋一生らがアラフォー「AK(あえて結婚しない)男子」を演じる深夜ドラマ『東京独身男子』が好評のようだ。 アラフォーとまではいかないが、僕もおなじ30代独身男子(って歳か)として、興味深く見てるんだけれど、時代錯誤な90年代トレンディドラマ風のス…

管崇嗣の放埓~安史の乱点描(1)

遊牧世界と農耕世界にまたがる新王朝を樹立せんとする強大な北方のカリスマ安禄山と史思明の反乱により帝都長安は陥落、老いた玄宗は愛する楊貴妃を縊り殺して蜀へ落ちのび、父や楊氏一門と確執をかかえる皇太子・李亨は、長安回復の兵を集めるため父と袂を…

釣りキチと龍と魚たち

例によって久々に『北夢瑣言』を読んでいたら変な記事を見つけたので、以下に紹介する。 『北夢瑣言』逸文巻第四 釣魚見龍 李宣宰陽縣、縣左有潭、傳有龍居、而鱗物尤美。李之子惰學、愛釣術、日住潭上。一旦龍見、滿潭火發、如舒錦被。李子褫魄、委竿而走。…

3日間でゴールデンカムイスタンプラリーを駆け抜けてみる~3日目

~3日目~ さて、いよいよ最終日となる3日目である。 本日は旭川市博物館からスタートし、網走監獄、釧路市立博物館を経て、阿寒湖温泉にあるアイヌコタンのアイヌシアターイコロまで、道北・道東をぐるっと巡ることになる。 予定ルートは次のとおり。 延…

3日間でゴールデンカムイスタンプラリーを駆け抜けてみる~2日目

~2日目~ 2日目は札幌すすきのからスタート。 まずは小樽市総合博物館運河館へ向かった後、札幌へ戻り、残された北海道博物館と開拓の村を回り、月形町の樺戸博物館を経て旭川へ北上、可能であれば旭川市博物館まで消化したいところ。 予定ルートは次のと…

3日間でゴールデンカムイスタンプラリーを駆け抜けてみる~1日目

連日、胆振東部地震の影響で北海道を訪れる観光客が激減、観光収入も低迷していると報道が続く。厚真など震源地周辺を除けば概ね避難は解除され、インフラも復旧し、店舗も通常営業しているところが多いようだが、それでも客足は遠のいているそうだ。 じゃあ…

ソグド系ウィグル武人の肖像―五代人物伝(1)何重建

唐末五代の代北に勢力を伸長し、のちに後唐を建国した李克用父子率いる沙陀集団には多数のソグド系武人が存在したことが夙に指摘されているが、森部豊氏の一連の論著で取り上げられるように、彼らの淵源としては唐代にオルドスに設置された突厥遺民の羈縻州…

【虫注意】あの娘ぼくがゴキブリ食べたらどんな顔するだろう

先日、学生時代の後輩の結婚式に招かれ、横浜へ行ってきた。 十数年の付き合いになる後輩とは、学生時代はよく一緒にバカをして遊んだものだが、そんな彼女も明日は花嫁。彼女の幸せを祝う気持ちの裏に、娘を送り出す父親のような一抹の寂しさも覚える。僕が…