壁魚雑記

漢籍や東洋史関係の論著を読んで気づいたこと、考えたことの覚書きです。ときどき珍スポ。

【虫注意】あの娘ぼくがゴキブリ食べたらどんな顔するだろう

 先日、学生時代の後輩の結婚式に招かれ、横浜へ行ってきた。

 十数年の付き合いになる後輩とは、学生時代はよく一緒にバカをして遊んだものだが、そんな彼女も明日は花嫁。彼女の幸せを祝う気持ちの裏に、娘を送り出す父親のような一抹の寂しさも覚える。僕がもう少し若ければ、式の前夜にバチェラー・パーティーのようにバカ騒ぎをして、この寂しさを紛らわしたのかもしれない。

 しかし、僕もすでに三十を超えたいい大人だ。昔のようにバカはできない。落ち着いた雰囲気の店で学生時代の思い出を肴にしっぽりと飲み、彼女の未来を祝福しよう。挙式前夜、僕は式に参列する他の後輩を引き連れ、野毛にある一軒のバー居酒屋の扉を叩いた。

 

 店の名は、

 

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 珍 獣 屋

 

 コンセプトは、店名とメニューからだいたい察しがつくだろう。

 

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 そう、大人がしっぽり飲むのにふさわしい、落ち着いた雰囲気のお洒落バー居酒屋だ。

 一緒に来た後輩にも「好きなもの頼みな」とメニューを渡す。

 

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 後輩「いや、ほとんど食べたことないものなんですが…」

 

  遠慮しなくていいのに、と思いながら、僕は適当に見繕って注文する。

 

 まず一品目はラニアの刺身

 

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 旨味の濃い白身魚で、普通に美味しい。もっと生臭いものかと思っていたが、臭みはほとんど感じられず、食べやすい。言われなければヒラメと勘違いしそうだ。

 

 続いて蛾の幼虫の唐揚げ

 

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 白っぽいミルワームのようなビジュアルを想像していたが、カラッと真っ黒に揚げられた姿はどんぐりのようで愛らしい。これなら虫が苦手な僕でも食べられそうだ。

 カリカリの外皮(殻?)を歯で破ると、ブチュンクリーミーな身肉が弾け、口腔にまったりとした淡白な味が広がる。

 

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 外はカリカリ、中はとろふわ。食感は美味しいたこ焼きと一緒である。味については後輩が「白和えみたい」と冷静に評していたが、たしかにそのとおりだと思った。

 

 そして想像以上に大きいワニの一本揚げ

 

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 僕がいままで食べてきたワニ肉はカットされたステーキだったので、皮付きの肢一本丸ごとははじめて。とにかくデカい。そして歯ごたえのある鶏肉のような味わいで、なかなか美味い。店員さんによればイリエワニらしいが、どこから輸入されたものかは教えてくれなかった。

 

 ウサギの肉焼き

 

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 こちらも鶏肉に似ており、まったく抵抗を覚えずに食べられるお味。逆にいえばこれまで食べてきたメニューに比べるとパンチが弱い。

 

 こちらは猪のキ〇タマ炙り焼き

 

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 もう名前だけで男子はタマヒュンな戦慄メニュー。4等分に切って炙られてるんだぜ。

 しかしビジュアルも味もレバーに近く、その部位から想像するような生臭みもない。ビールによく合う、非常に食べやすい一品だった。

 

 そしてラストはこちら、ゴキブリの唐揚げ

 

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 ゴキブリといってもチャバネなどの日本の品種ではなく、デュビアという南米産ゴキブリとのこと(和名はアルゼンチンモリゴキブリ)。ゴキブリの唐揚げですらハイカラとは、まったく横浜には恐れ入る。

 頭からバリバリかじりつくが、香ばしくて意外と食べやすい。カブトムシのような腐葉土臭もなく、何より中身を感じさせない煎餅のようなクリスピー食感に救われた。うん、これはイケる。

 

  僕らはゴキブリをかじりながら、ワニ肉に舌鼓を打ちながら、学生時代の思い出話や明日花嫁となる後輩の話に打ち興じた。

 僕らはもういい大人だ。学生時代のようにバカばかりはできない。それでも、こうして思い出話に花を咲かせている束の間、あの頃に戻ったかのように錯覚する。いまより金はなくとも、ずっと自由で、輝いていた日々。おなじ時代を呼吸した大切な仲間たち。明日花嫁となる後輩の顔を脳裏に思い描く。

――幸せになれよ。

 前歯にはさまったゴキブリの肢をせせりながら、僕は彼女の幸せを祈った。