魅惑(?)の三国志エロラノベの世界~羅姦中『三国志艶義 貂蝉伝』シリーズ
トーハクの三国志展が開幕し、関連出版物も続々刊行される今夏、日本では何度目かの三国志ブームが起きているようだ。
横山三国志や吉川三国志を読んで育った僕も、最近は三国志熱が再燃し、関連書籍をいくらか読んでいるが、今回はそのなかでも僕以外には誰もレビューを書かなそうな三国志本を紹介したいと思う。
そう、タイトルと表紙からなんとなく察していただけると思うが、貂蝉を主人公にすえた三国志物のエロラノベである。
Amazonの商品紹介リンクがなぜかシリーズ1作目「洛陽炎上」と3作目「董卓暗殺」しか貼れないが、2作目に「連環之計」がある。
タイトルからもわかるように、後漢末の混乱による董卓の専横、それを危険視する王允が養女貂蝉を利用して董卓と呂布を離反させる「連環の計」、そして董卓の暗殺まで、三国志でおなじみの物語を官能シーンたっぷりに描く歴史官能小説である。
作者は羅姦中。本シリーズを書くためだけに名付けたようなペンネームだ。
サラリーマンを続ける傍ら、営業をサボって文筆活動に勤しむ。
陳舜臣ばりの中国歴史小説家を目指しながらも、どこにも採用されず。
そこで天から舞い降りたのが、「三国志をエロで書く」この企画。
通勤電車の中で美少女とのセックスシーンを書く日々が続く。
天よ、この作者にもうちょっとまともな企画を与えてやってくれ。
ちなみに羅姦中先生、本シリーズのほかに著作はないようだが、あるいは別名義で一般文芸デビューしてたりしないのだろうか。
と思って検索したら、日本推理作家協会の現職の会員らしい。歴史小説でもなければ官能小説でもない。どこに向かってるんだよ羅姦中先生!?
羅姦中先生の迷走はさておき、本書の内容を紹介しよう。各巻の章題は次のとおり。
序 章 美少女との出会い
第一章 暴君の放恣
第二章 美女の宿命
第三章 陰謀渦巻く宮廷
第四章 伝国の玉璽
第五章 陽城の虐殺
第六章 淫虐の果てに
第七章 榮陽の会戦
序 章 洛陽炎上
第一章 酒池肉林の野望
第二章 江東の虎
第三章 激闘!陽人城
第四章 董卓暗殺計画
第五章 陽人城攻防戦
第六章 暴君の正餐、虐殺と酒池肉林
第七章 連環之計
第八章 虎の死
序 章 淫虐の虜囚
第一章 暴君の虐政
第二章 忍び寄る刺客
第三章 智将対猛将
第四章 董卓暗殺
第五章 楽園の崩壊
第六章 王允の暴走
第七章 滅びの笑い
内容的には黄巾の乱による戦災孤児であった貂蝉を王允が引き取る序章から、董卓暗殺後の涼州軍団の逆襲による王允の最期まで、正史と演義に依拠しつつ、貂蝉の侍女や献帝の侍女、董卓の孫娘などオリジナルキャラを若干追加しながら、エロ要素をふくらませて描いており、曹操が女体化するような変化球がない、エロ多めの歴史小説としても読める、わりとまっとうな内容である。
黄巾の乱の戦災孤児であった貂蝉は、刺史として故郷に赴任してきた王允に拾われ、詩文や経書、舞踊のほかに性技も仕込まれる。本シリーズでの王允は、戦災孤児の女児を養女とし、「娘」と呼ばれる文武と性技に通じた一種の性奴隷に仕立て上げ、高官への賄賂や間諜に利用して官界でのし上がっていくというダーティーな設定。こんなの俺たちが知ってるあの硬骨漢の王允じゃないよ!どこ硬くしてるんだよ!
そんな王允が戦災孤児の貂蝉(当時は十歳前後)と出会ったシーンがこちら。
(まだまだ青い蕾だが、きっと大輪の花が咲くぞ。蜜もたっぷり滴るような)
王允は少女の癇の強そうな瞳に、褥での乱れた姿が目に浮かんできた。その蕾を押し広げることができたら、夜が明けるのも忘れて貫くことができたらどれほど幸せか。
王允は少女を頭の天辺から足の爪先までしげしげと見た。
(まだ、男を知らない娘だ)
王允の食指が動いた。本能が、王允に少女が処女であることを告げている。
その無垢な、白地の生地を、王允の色に染めてみたい。自分の思うような女に調教してみたかった。
思い通りといっても、ただ単に従順な女にするのではなく、暴れ馬を力でねじ伏せ服従させるように、表面だけでなく、心の底からの服従をさせたい。少女の花園に肉棒を入れ、思うさま掻き回したい。
少女の身体を貫くときに、きっと少女は王允を睨むだろう。悍馬が乗り手を見極めようとするように。あるいは追い詰められた兎が猟犬を蹴り殺すように激しく抵抗するかも知れない。
王允は、この少女を蹂躙する時を想像すると、居ても立ってもいられなくなった。下半身の疼きを覚え、見下ろすと勃起していた。
十歳の少女を前にしてこの発想。王允、完全にロリコンど変態じゃねーか。漢朝と献帝に忠実だけど、自分の性欲にも忠実なド畜生というパーソナリティが共存する、ある意味複雑なキャラクターである。
ちなみに王允は巨根で絶倫という設定だが、長さは「一尺二寸(漢代の尺で二十八センチ)」とのこと。まさか王允のち〇ちんで漢代の度量衡を学ぶことになるとは。勉強になるなあ(白目)。
そんな王允に手とり腰とり性技を叩き込まれた貂蝉は魔性の女として成長し、周囲の男たちを次々と翻弄し、漢朝の命運をゆさぶっていく、というのが本シリーズの基調路線である。
第一巻「洛陽炎上」では、董卓の洛陽入城による混乱、献帝の抵抗、董卓軍と献帝をともに翻弄する貂蝉、董卓軍による陽城での虐殺と凌辱、作中で唯一、貂蝉の魅力に溺れない(読者も唯一感情移入して読める)理性的な董卓軍のブレーン賈詡の視点からみた反董卓連合軍との榮陽の戦いまでを描く。
官能小説としてのエロシーンはやはり董卓やその配下による凌辱が多く、そのほかに王允と貂蝉の頻繁な絡み、貂蝉による献帝の筆おろしなどがある。
注目したいのは、董卓の悪行のひとつに数えられる陽城での住民の虐殺と凌辱に焦点を当てたり、彼の政策である清流派士人の登用や、五銖銭の改悪などにも目配りをしているように、董卓周辺のかなり細かいエピソードまで拾って官能小説というフォーマットに落とし込んでいたり、演義一辺倒ではない、正史についての一定の知識をふまえて描いている点である。さすが羅姦中先生、中国歴史小説家を目指していただけあって勉強の跡がうかがえる。
第二巻「連環之計」では、董卓による長安遷都と郿城での酒池肉林、反董卓連合軍の先鋒として活躍する孫堅の陽人城をめぐる攻防戦と荊州退転後の死、そして連環の計により呂布を篭絡し、董卓の閨に侵入する貂蝉、と物語は佳境を迎える。
ここで注目すべきは、官能小説にしては力が入りすぎている孫堅の合戦シーンである。文章が拙いせいもあって、そこまで盛り上がるわけでも面白いわけでもないのだが、本来、羅姦中先生が描きたかったのは美少女のエロシーンよりも、こういう武将たちが活躍する血沸き肉躍る物語だったんだろうなあ。
孫堅のシークエンスについては、とくに貂蝉が介入しなくても話が成立するのに、無理やり彼女と孫堅の濡れ場を入れている感が強くて、とにかく歴史小説の醍醐味である合戦シーンを描くために孫堅を引っ張り出し、言い訳のように貂蝉と絡ませているようにしか見えなかったのが残念。
そのほか、董卓が美少女を集めて酒池肉林ハーレムプレイをするのも見どころのひとつなのだが、
董卓は、古代商王朝の最後の王、紂王が殷の都に築いた酒池肉林を再現しようと思っている。
酒を満たした池と、肉を枝にかけた林の間を裸の男女が戯れ、紂王自身もその乱交に加わって遊んだという。
(肉をかけると痛むし、乾肉では風情がない。そうだ!果物が良いだろう)
董卓は美女と戯れる己の姿を想像し、天幕を支える柱のようにそそり立つ怒張を感じた。
酒池肉林を再現するのにも実現性をまじめに考慮した結果、果物を木にかけるという平凡な発想に着地する董卓がちょっと可愛い。
そして最終巻「董卓暗殺」では、王允による士孫瑞や呂布を巻き込んだ董卓暗殺計画の推移と、董卓亡きあとの王允の暴走、貂蝉の挑発にのった李傕・郭汜ら董卓軍残党である涼州軍団の逆襲までを描く。
二巻までのエロシーンは董卓やその配下による凌辱描写が多かったのだが、この巻では王允が酷い。
董卓の孫娘をさらってきては監禁・凌辱したり、董卓暗殺後は気に入らない蔡邕を投獄し、その娘の蔡文姫をこれまた監禁・凌辱するという畜生っぷり。董卓ならまだしも、王允もまさか死後1800年経ってこんなに性獣扱いされるとは思いもよらなかっただろう。
しかし王允が博学な才媛である蔡文姫に論語を朗読させながら身体を弄ぶシーンは、本シリーズの白眉といえる。
「朗読せよ。お前にとっては子供の玩具であろうがな」
王允は文姫の隣に腰を下ろした。文姫が竹簡を最初のほうの数枚分だけ広げた。全部を広げると文姫の両腕を広げた流さになってしまう。
「子曰、学而時習之……」
朗読を始めた。幼い頃から厳しく躾けられただけあって、見事な発声だ。
「不亦……あッ、いやッ」
王允が文姫の胸の谷間に手を入れた。耳朶も舌先で揉む。
「論語のどこにそんな言葉が書いてあるのだ? もう一度、最初から!」
手コキカラオケかよ!
思わずツッコみたくなるシチュエーション。羅姦中先生、蔡文姫の登場を決めた時点でこのシーンを思いついて絶頂してそう。
ちなみに官能小説特有の表現についても、中国歴史小説家を目指していた羅姦中先生なだけに、独特である。
「ぃやぁああああ、そこッ、も……漏れちゃうぅッ」
貂蝉が神話に出てくる神・羿の剛弓みたいに仰け反った。老仙が使う瓢箪のように、止め処なく女陰から愛の神酒が溢れ出す。
愛液の表現ひとつとっても、中国の伝承や自然をふまえたうえで、重複しないよう描き分ける配慮と工夫が光っている。ぜひ『官能小説用語表現辞典』に載せていただきたいところだ。
以上、見てきたように、本シリーズは董卓周辺のエピソードを丁寧に拾って官能小説のフォーマットに落とし込んだり、当時の文物についても版築や履(サンダル状の履物)などが大した説明もなくさらりと描かれたりと、中国史に対する羅姦中先生の(官能小説家としては)造詣の深さが垣間見え、意外と考証がしっかりしている歴史小説という側面と、ビッチ、クール美女、ロリ、人妻など多彩な属性の女キャラによる濡れ場や、中国史の素養に裏打ちされた独特の官能表現が楽しめる官能小説としての側面を併せ持つ、意欲的な作品である(題材が題材なだけにイチャラブなシチュエーションはないが)。
個人的には歴史小説としてはいまいち盛り上がらず中途半端だが、官能小説としてはそこそこエロくて、それ以上に笑えるという感想。
羅姦中先生の次回作があるのかはわからないが、次は水滸伝物なんてどうだろうか。ペンネームも「したい、あ~ん」とかで。