昭和レトロだけでは片付けられないレトロ喫茶「ランプ城」
室蘭の街外れに「ランプ城」というレトロな喫茶店がある。
珍スポ界隈ではそれなりに名の通った店らしく、僕はレトロ喫茶も好きなので、前々から気になっていたのだ。函館への小旅行の帰路、室蘭に寄って、件のランプ城を捜してみた。
Google マップに案内され、たどり着いたのは街外れの、海に面した高台。
いや、建物がないんですが…。
右手の取り壊された瓦礫じゃないよね?まだ営業してるよね?
不安になりながらも、獣道のような細い道が高台の奥へと続いているので、そちらをたどってみる。
やがて現れる階段。
登りきったところに、
あった!ランプ城だ!!
城というより完全に民家だが、営業しているのだろうか?ごめんくださ〜い。
無人の店内に入って何度か呼ぶと、城主と思しきおばあさんと、その娘さんらしき女性が奥から出てきた。
ニコニコと愛想の良い娘さんが注文を取りにきてくれ、話好きなのだろう、おばあさんは何くれとなく話しかけてくれる。
先客がいなかったので落としていた灯りを点けてもらう。
不思議な形の照明(自作したらしい)をはじめ、調度といい装飾といい、店内は昭和レトロとも違う、独特の古さびた雰囲気。
窓の外、繁った木々の隙間からは海も見える。
おばあさんと話していると、「せっかくだから書いていってください」と、アイスコーヒーと一緒に訪問者ノートを渡される。
大阪、茨城、福岡…。道外からも珍しがって客が来るとは言っていたけど、ほんとうに珍スポ界隈では知る人ぞ知る穴場なのだろう。
「すごい、色んなところからお客さん来てますね〜」
「トリヤマさんも来たことあるんですよ」と、おばあさんが無造作に壁に飾られたノートの切れ端を見せてくれる。
鳥 山 明 だ!!!(動揺のあまり写真が手ブレしてます)
え、本物!?というか色紙じゃないの!?悟空雑じゃない?でも即興で描いたらこんなものか…。
「アニメはよくわからないんだけどねえ」と、のほほんとしたおばあさん。
鳥山明がどこでランプ城を知ったのかわからないが、第三者がここで鳥山明を騙る理由はさらに不明なので、やはり本物なのだろうか…。
ちなみにアイスコーヒーは苦味と酸味が控えめな飲みやすい味だった。
店内をながめていると、奥に洞窟のようなフロアがあったので気になっていたら、おばあさんが案内してくれた。
手作り感のある石垣。おばあさんの話では、昔ご主人が中国にいた頃、西湖のほとりの料理屋が同じようなつくりだったらしく、そこに感銘を受けて、中国から人を呼んで同じものをつくらせたとか。戦前戦中の話なのだろうか。室蘭の景気が良かった時代は中央町でスナックを経営していたそうだし、だいぶ羽振りが良かったのだろう。
東郷青児の絵が無造作に飾られている。
「最近テレビに出るようになったでしょう。東郷さんの絵、本物ですよ」とおばあさん。僕もうんうんと頷いていたけど、東郷青児が亡くなったの、1978年なんですよね…。僕は生まれてすらいない。
たしかに、ここは俗世と時間の進み方が違うのでは、と思わせる雰囲気が、店にもおばあさんにもあった。
「変なものばかりでしょう」と笑うおばあさんに、「うん、僕こういうの好きなんですよ。もっと見たいなあ」とおねだりすると、石垣フロアの奥の一室に案内してくれた。
昔は宴会用に貸していたという個室には、中国のものだという水墨画の屏風が。
桂林の季節の移り変わりを描いたものらしく、落款もあるが、誰のものかは不明。おばあさんもわからないそうだ。
この屏風も含め、店内の骨董などはご主人が趣味で集めていたものらしく、「変なものを集めるのが好きだったんですよ」と懐かしそうに語るおばあさん。
こちらは油絵だが、ジャンクと江南の水郷を描いたものだろうか。味のある作品だ。おそらくご主人は江南の風物を愛していたのだろう。話してみたかったな。
元々は住居にするつもりで建て、この石垣フロアもつくったランプ城だが、人に勧められてこちらを店舗にしたとのこと。ロケーションの良さといい、中国風の石垣など建物自体の面白さといい、全国の珍スポ者から愛されている現在が、その判断の正しさを証明しているだろう。前情報ではレトロ喫茶だとしか聞いていなかったが、個人的には予想外の中国趣味になんだか親近感を抱いてしまった。
どうかこれからも元気で末長く営業を続けてほしい。