大シルクロード展雑感
昨年から全国巡回中の大シルクロード展、宮城県は多賀城市の東北歴史博物館で最終日に滑り込みで見てきたので、とくに気になった展示を簡単に紹介したい。
入り口から、北周の涼州薩宝だった史君(とその妻の康氏の合葬)墓から出土した石堂のレプリカでテンションが上がる。
ともにソグド系のカップルであり、ソグド語と漢文で併記された銘文からも、彼らは漢化が浅く、ソグド人としてのアイデンティティを濃厚に維持してしていたことが見てとれる。
ソグド語の手紙。マニ教徒間でやりとりされた手紙らしく、トルファン出土の11世紀のものということで、必ずしもソグド人とは限らず、ソグド文字を利用していたマニ教徒のウイグル人の手になるものかもしれない。
ホータン出土の前2〜後2世紀頃の壁掛とのことで、上半分はケンタウロス的な半人半馬、下半分は槍を持つ武人像。出土した墓の被葬者のズボンにリメイクされたものらしいが、陰影で顔の立体感を出す写実的な技法は、とても二千年も前のものとは思えない。
胡騰舞像。かなり小さいが、躍動感のあるポーズで胡騰舞をおどるソグド人を表現していて、じっと見入ってしまった。どこかピエロのような滑稽みも感じる像は、唐代の人びとが胡騰舞をどのように見ていたのかを表していそう。安禄山もこういうダンスでウケをとっていたんだろうな。
固原史氏の史索厳と安娘のこれまたソグド人夫婦の合葬墓から出土した水晶。ペンダントトップとして使われていた可能性があるそうで、青く透明感のある水晶はシンプルにきれい。
今回見た展示で一番アガったのが、このソグド商人へ発行された過所(通行証)。本物の過所というだけでも興奮するのに、ソグド商人が交易のために交付されたものということで、興奮倍増。
西州の石染典というソグド商人が、交易のために訪れていた瓜州から、常楽、塩池などの4つの守捉を通過し、沙州(敦煌)からさらに伊州(ハミ)へ向かう西行の足どりがたどれることや、その一行に康禄山、石怒◾️などのソグド人がいたこと、ロバ十頭の小規模な隊商だったことなどもわかり、非常におもしろい史料だった。あと、禄山という名前はやはりソグド人には珍しくない名前(光を意味するソグド語?)の音転写なんだろうな、とか。
行く先々で紙を継ぎ足されて割り印が押されているのも、現代人の感覚に近くておもしろい。
今回の展示には吐蕃関係の文物もあり、この飾板は吐蕃人を表しているとのこと。ターバンを巻いて、袖が長くて…という吐蕃のファッションをはじめて見たので、非常に新鮮だった。
敦煌出土の龍文塼。お座りしている龍は、辟邪の機能をもつ「伏龍」とのことで、そういえば鎮墓獣もみんなお座りポーズだけど、このポーズ自体に意味があるのだろうか…。
そのほか、色々な西域っぽい唐三彩など。3枚目のリュトンみたいな唐三彩ははじめて見たな。鳳凰をあしらった鳳首杯とのことで、しっかり中華ナイズされたリュトン。
白居易の故居から出土したという、小鉢や碗、石硯。こういう質朴な硯で墨をすりつつ、閑適詩なんかを詠んでいたのかと想像するのも楽しい。
唐太宗の妃である韋貴妃の墓から出土した「献馬図」。巻髪に深目高鼻の馬丁?たちはあきらかに西域の胡人、おそらくはソグド人として描かれており、西域から駿馬を献上するシーンを描いているのかもしれないが、ソグド系の人びとが唐朝の監牧に関わっていたことを思いあわせると、馬の扱いに慣れた彼らが馬とセットで唐代の人びとには想起されたのではないか、などと想像してしまう。
いやー見応えあったなあ、と満足して会場から出ようとすると、出口にラクダの剥製が。説明をよく見ると…
池田…大作、先生!?
ああ〜、そうか、そういうことか〜。
池田大作は中国史に関心あるし、潮出版は横光三国志をはじめ中国史関係の本いっぱい出してるもんな!
そもそもこの展示の主催である富士美術館もそっちのアレだもんな!
ミホミュージアムといい、新興宗教はなんでこんなにシルクロード好きなの…。
そして俺みたいなソグド畑の人間は、好むと好まざるとに関わらず、こういう新興宗教のお世話になってるんだなあ…、と複雑な思いで博物館を後にしたのであった。
まあ展示品に罪はないので、シルクロードに興味があって、創価学会のせいで一家離散の憂き目を見たわけではない人にはおすすめの展示ですよ。これから愛媛・岡山・京都と西日本を巡回するので、西日本の方はぜひ。