魅惑(?)の三国志エロラノベの世界(2)〜井の中の井守『孔明のエルフ嫁 三国志赤壁異聞』
弊ブログはまじめな東洋史ブログのはずだが、なぜかアクセスランキングの上位に三国志エロラノベのレビュー記事が君臨していることが多い。
読者の品性を疑う由々しき事態だが、三国志コンテンツウォッチャーとしては、日本における受容形態のひとつとして、こういったアダルトコンテンツにおける三国志の描かれ方というのも考究すべきテーマだと考えている。
そこで、今回はあらたな三国志エロラノベとして、井の中の井守『孔明のエルフ嫁 三国志赤壁異聞』(フランス書院、2019)をとりあげたい。
まず、本書の目次は次のとおりである。
新野流亡の章 幸せの終わり、英雄のはじまり
赤壁前夜の章 雨龍は昇りてエルフは軍師に愛される
終章 どこまでもふたりで
目次からもわかるように、本書は諸葛亮(以下「孔明」)が荊州の名士黄承彦の娘(月英)を娶ってから、曹操の荊州攻略からの逃避行、そして赤壁の戦いまでを描く、孔明夫妻のいちゃラブ官能ラノベである。前回とりあげた『三国志艶義 貂蝉伝』シリーズが、三国志序盤を舞台とし、濡れ場がほぼ凌辱シーンばかりだったのとは対照的である。
さて、孔明の嫁、というと某マンガを連想するが、本書では、孔明の嫁・黄月英はタイトルどおりエルフである。自分でも何を書いているのか解らないが、エルフということになっている。
月英の生まれた部族は耳長族と呼ばれる。これは漢族からの呼称で、西域の民からは〝馬乳酒の民〟と呼ばれていた。遊牧生活の傍ら、馬乳酒を製造して交易を行っていたからだ。
ちなみに月英の部族は自らを〝エルフ〟と自称していた。他の民とは違う、という意識があったからである。
エルフの男は戦士となり、女は巫女となるのが慣習だった。女が生まれると長老は馬乳酒を用いた秘蹟を行う。すると霊感が上昇し、人ならざる者の声を聞けるようになるのだ。
本書の世界観では、西域の耳長族の出身ということで、人ならざる者――妖怪とも交信できるという、エルフらしい属性と三国志的な世界観をどうにか接合した、もっともらしい(?)設定となっている。黄氏については、木牛流馬の元ネタになったカラクリをつくった才女として内助の功を称える民間伝承があり*1、その異能で孔明を支えたという伝承や、髪が黄色いという史書の記載から、「異能(妖怪との交信)で孔明を支えるエルフ妻」というキャラクター設定となったのだろう。なお、本書ではエルフとしての属性を優先しており、キャラの渋滞を避けるためか発明家属性は捨象されている。
ちなみに正史の裴注で引かれる『襄陽記』では、黄承彦が娘の容姿を「黃頭黑色」と評しているので、金髪ダークエルフにした方がより史実に近かったかと思うが、金髪白皙の一般的なエルフ像の方が読者に受け入れられやすいという配慮から、現在の容姿に落ち着いたのだろう。また、黄氏が襄陽一帯では「醜女」と評されていた史実も、当時の漢人(とくに西域と交渉のない荊州の人びと)にとっては、なじみのないコーカソイド的容貌だったため、「醜女」として映ったものと処理されており、官能小説としての実用に供するには非常に合理的な解釈といえよう。
この黄月英は、後漢の衰退に伴う西域の混乱により一族が滅亡し、流亡の末に荊州へたどり着き、黄承彦の養女となったという設定であり、非漢人であることからも周囲から差別を受けて心を閉ざしたキャラクターとして描かれており、そんな彼女が誠実で女性を尊重し、世間の常識を意に介さない「奇人」孔明との夫婦生活をとおして心を開き、女としての幸せを手にしていく、という物語になっている。
もう一人の主人公である孔明の方は、結婚当初は女性に触れることすらためらいがちの童貞だったが、月英と交接するうちに言葉責めまで覚えていく学習能力の速さで、「さすがは臥竜」と感心してしまう。しかし、初夜ではやはり童貞で、月英の裸を前にしたときの会話は、神算鬼謀を謳われた名軍師とは思えないほどIQが低い。
まさに芸術的だった。真っ白な柔肉がふっくらと盛り上がり、その合間に綺麗な割れ目があった。
「こ、これがおま×──」
「いっ、言わないで! 見ないでッ!」
月英はくるんと反転し、両手で股間を覆い隠す。すると今度はまた魅力的なものが視界に映った。
「おっぱい」
「どこを見てるんですかっ!」
少女はバッと片腕で胸を隠す。だがふくらみは隠しきれるものではなく、押し潰れて卑猥な形になってしまっていた。
「おっぱい」
「そっ、それしか言えないんですか!?」
なんという理不尽さだろうか。どこを見ているのか正直に答えただけなのに。
こんなの俺たちが知ってる孔明じゃねえよ!!
また、史実の孔明は身長8尺(約184㎝)の偉丈夫だが、作中に身長についての言及はないが、月英が見とれるほどの巨根として描かれていることを、孔明の名誉のため付言しておきたい。
そのほか、諸葛家の重要人物として孔明の弟の諸葛均も登場するが、彼は男の娘である。自分でも何を書いているのか解らないが、特に何の必然性も濡れ場もなく、男の娘として造形されているのだ。
背丈は五尺ほど。艶やかな黒髪を三つ編みに、その先端を白の細布で結わえている。丈を短く切り詰めた女性用の漢服からは、真っ白な美脚がすらりと伸びていた。
ただ、「孔明じゃなくてお前がパリピなの!?」とツッコみたくなる明るいムードメーカーで、月英のよき理解者ともなる愛すべきキャラクターではある。ちなみに作中では「背丈は五尺ほど」と描かれているが、後漢時代の度量衡(1尺=約23㎝)で換算すると約115㎝なので、男の娘キャラに萌えるどころか「小人症かな?」と心配になる身長である。おそらく日本の度量衡(約30㎝)を想定し、150㎝程度の小柄な男の娘キャラを造形したかったのだろうが、ファクトチェックの甘さが「エルフと妖怪と小人の織り成す異形の三国志エロラノベ」を爆誕させてしまっている。
また、呉陣営では、孫権や魯粛など月英に露骨に横恋慕するキャラクターが多く、男女関係に奔放なことを江南の風習のように描いているが、これは士庶の別に目を瞑ればあながち誤りともいいきれず、後代でも、江南における礼教的規範から自由な男女関係が中央から問題視される事例が散見される(一例として下記の過去記事を参照のこと)。
そのような江南の男たちの視線にさらされる月英も被虐的な妄想がドライブしてしまう。
(わたし、こんなところで裸にされて……)
ドクン、と心臓が跳ね上がった。呼吸がどんどん荒くなっていく。先ほど魯粛が放った卑猥な言葉が頭の中で反響していた。
今、あの卑怯で卑劣な男がやってきたら、わたしは簡単に組み伏せられてしまうだろう。パンパンに張り詰めた肉棒で陰唇の形が崩れるまで容赦なく犯されて、子宮の中に黄ばんだ子種汁をたっぷり注がされてしまうのだ。
そして彼は口封じのために、この船の漕ぎ手たちを誘うに違いない。わたしは屈強な男たちに輪姦されて、内も外も滅茶苦茶に穢し抜かれて──
(や、やだ……わたしったら、なんてことを考えてるの……!?)
──月英は顔を真っ赤にして身悶える。
しかし、孫権はともかく、魯粛も死後1800年ほどを経て東夷の国で自身がこんな性獣にされているとは思いもよらないだろう…。
あと、山越はケモミミだそうです。
「すみませんが、我が夫は諸葛亮ただひとりと心に決めております」
月英は戸惑いながら言った。
「それにわたしは、耳長族ですし」
「そんなこと、気にはせん」孫権は大真面目に言う。
「知らぬか? 我らが相手にしている山越の民は獣耳なのだ」
知らねーよ!!
このようにツッコみどころはありつつも、愛すべきキャラクターたちの和気藹々としたかけあいで物語が進んでおり、ラノベ特有の軽い文章やノリもあって、非常に読みやすい内容ではある(文章はやや拙いが…)。ただし、孔明の劉備への仕官の経緯や赤壁本戦が(ほぼ)割愛され、徐庶をはじめ孔明の周辺人物も大胆にカットされており、三国志物の小説としての面白さを求めている向きには不満が残るだろう。本書はあくまでも曹操の荊州攻略から赤壁の戦いに至る歴史を背景とした、孔明夫妻のいちゃラブが主眼のエロラノベなのである。
ただし、荊州の名士で蔡瑁や劉表とも閨閥でつながる黄承彦の娘との結婚が、孔明にとって荊州での安定した生活をもたらす旨を明記していたり、妖怪と交信できる月英の特性をいかして『子不語』等の伝奇小説に表れる中国妖怪を登場させ(当然時代は異なるのだが)赤壁の戦いの帰趨に結び付けるなど工夫が光っており(ネタバレになるので詳細はぜひ本書で確かめていただきたい)、また、諸葛瞻が孔明の晩年の子である理由付けまでされているなど、意外と考証にも目配りがされていて侮れない。
著者のほかの著作も日本の戦国時代に取材した作品が多いようで、羅姦中先生のように歴史小説家志望だったかは判らないが、歴史や伝奇小説への造詣があるのだろう。歴史エロラノベというニッチな世界で、今後の活躍が楽しみな書き手である。
また、本書の官能描写は普通のエロラノベと変わらず(まあ普通のエロラノベをそもそも読まないので何が普通かは判らないのだが…)、羅姦中先生のような中国文化に根差した独特の比喩がないため、個人的には物足りなく感じるが、実用したい読者にとっては羅姦中先生流の官能表現はノイズにしかならないだろうから、本書の方が実用向きだろう。凌辱シーンがなく、孔明夫妻のいちゃラブセックスがベースという脳に優しい仕様も含めて、『三国志艶義 貂蝉伝』と比べると三国志エロラノベとしては入門者向けの作品といえるかもしれない。本記事執筆時点ではKindle Unlimitedで読めるので、加入者は一度お試しあれ。
最後に、個人的に本書で一番好きなシーンをあげておく。孫権との同盟締結の使者として派遣された孔明に従い、柴桑まで長旅をしてきた月英がストレスで自慰をしたくなるシーンである。
(……指で慰めてから寝ようかしら)
妄想ならばともかく、現実に孔明以外の魔羅を求めようとは思わない月英だった。夫のそれを模した張形も今はない。新野からの逃避行で、家財と共に曹操軍に奪われてしまっていた。
本書では基本的に発明家属性が封印された月英だが、その彼女の唯一の発明が、よりによって孔明サイズのディルドである。しかも曹操軍に略奪されているという…。劉備軍の軍師の個人情報がダダ漏れなんて、由々しき事態ですよ!
